まえがき
会計は、本質的に経済に関する測定と伝達の用具であり、さまざまな経済体の管理手段として発達してきた。かって封建制の時代には、会計は王侯貴族や商人の私的な財産の記録・計算の手段に過ぎなかったけれども、近代社会においては、個人的な手段であるに止まらず、公的・制度的な経済用具となった。すでに20世紀において会計技術は、近代国家の財政上、不可欠な役割を演じ、また人々の経済生活の原動力である企業や家計の合理的運営のための重要な計数的指標を形成するものとして多面的な職能を発揮している。殊に近年、世界的に認められる諸国の改革・開放政策の実施は、経済の国際的な拡大を促進し、その経済行動に関連する会計技術の一大発展の契機となっている。同時にこのような国際会計への進展は、会計に関する知識を国境や言語の壁をこえて、極めて多くの人々が共有すべきものとしているのである。
私は十数年前に、会計学を専攻する日本の一人の大学教授として、中国の大学、企業団体等で財務会計及び管理会計に関する講座を担当したことがある。この時の日本語テキストは私が執筆し、本辞典の元主編・現副主編賈延文教授と当時日本留学中の賈原銘女史が中国語への翻訳を担当した。この頃、日中間には、まだ会計用語辞典はなく、日中双方共、英語が付された会計辞典が若干あるのみであった。日中両国には、それぞれ一万を超す会計用語があるが、その多くは、日中両語への翻訳が未だ行われていない状況にあった。したがって翻訳には困難を極めた。われわれはこの方面での言語の壁を克服するための会計用語辞典の必要性を痛感し、手始めに英日漢三か国語対照の会計用語辞典の製作を企画、編集作業に入ったのである。
いま世界には、六十億人になろうとする人口と二百に近い国・地域と八千から一万に及ぶとみられる言語がある。このうち、推測するに中国語人口は十二億人で断然第1位、英語は三億五千万人で第2位、日本語(一億二千万人)は、スペイン語(二億六千万人)、ロシア語(二億五千万人)、アラビア語とベンガル語(一億五千万人)、ポルトガル語(一億四千万人)に続き、第7位ないし第8位に位置する。中英日三か国の言語は、世界の言語地図の四分の一を占め、加えて、アジアの時代、環太平洋の時代が喧伝されている現在、経済の言語である会計の英日漢三か国語辞典の有用性は、極めて高いと考えられる。
英日漢会計用語辞典製作に関する仕事は、北京経済学院(現首都経済貿易大学)の王志忠教授、元本辞典副主編霍恩徳先生や筆者(当時愛知学泉大学教授・同大学経営研究所長)等日中両国の有志者十数名が賈延文教授の自宅で同教授を中心に行っていたが、数年後、北京経済学院財会系にその業務を移し、更に多くの専門家の協力を得て推進を計った。光陰矢の如く、年月を経て、当初から数えれば十五年、その間、種々なる事情で仕事の進捗は思うに任せず憂慮されたが、このたび関係者の労が実って発刊の運びとなり、誠に欣快に存ずるものである。本辞典製作関係各位には、ここにあらためて衷心より感謝申し上げるものである。
なお、本辞典製作過程においてご逝去になった二名について特に付記する。その一名は、賈延文教授夫人、故衛澂女史。女史は、用語のカード作成に従事し、その数、実に一万二千百九十一枚、約百万字の原稿を遺された。他の一名は、南山大学の故大雄令純教授。教授は、英日漢の数百の会計用語の比較研究を行い、これからというときに病に倒れられた。惜しくも故人になられた二名に対して、生前のご厚誼を感謝し、本書の公刊を報告するとともに深く哀悼の意を表するものである。
高橋 巌